「あ、これは。えゝ、一寸おたづねいたしますが、美容院はどちらでせうか。」
「さあ、あいにくとさういふところ存じませんでございます。一体それがこの近所にでもございませうか。」
「それはもちろん。現に私のこのむすめなど、前は尖ったおかしなもんでずゐぶん心配しましたがかれこれ三度助手のお方に来ていたゞいてすっかり術をほどこしましてとにかく今はあなた方ともご交際なぞ願へばねがえるやうなわけ、あす紐育に連れてでますのでちょっとお礼に出ましたので。では。」
「あ、一寸。一寸お待ち下さいませ。その美容術の先生はどこへでも出張なさいますかしら。」
「しませうな」
「それでは誠になんですが、お序での節、こちらへもお廻りねがへませんでせうか。」
「さう。しかし私はその先生の書生といふでもありません。けれども、しかしとにかくさう云ひませう。おい。行かう。さよなら。」
悪魔は娘の手をひいて、向ふのどてのかげまで行くと片眼をつぶって云ひました。
「お前はこれで帰ってよし。そしてキャベヂと鮒とをな灰で煮込んでおいてくれ。ではおれは今度は医者だから。」といひながらすっかり小さな白い鬚の医者にばけました。悪魔の弟子はさっそく大きな雀の形になってぼろんと飛んで行きました。
東の雲のみねはだんだん高く、だんだん白くなって、いまは空の頂上まで届くほどです。
悪魔は急いでひなげしの所へやって参りました。
「ええと、この辺ぢゃと云はれたが、どうも門へ標札も出してないといふやうなあんばいだ。一寸たづねますが、ひなげしさんたちのおすまひはどの辺ですかな。」
賢いテクラがドキドキしながら云ひました。